大判例

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福岡地方裁判所田川支部 昭和44年(ワ)49号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕<証拠>によれば本件事故現場の道路は巾員約一六メートルの田川市および飯塚市を結ぶ国道二〇一号線で両側には人家商店が建ち並び事故現場は右道路の両側から狭い市道の交わる交差点で六差路になつた場所であるが訴外岩下は被告車を運転し時速約四〇キロメートルで本件事故現場にさしかゝり進行右斜前方約三六メートルの交差点の道路右側に水口勝(当六年六月)とその姉水口里美(当九年)が道路中央に向つて佇立し一方その反対側の道路左側にも丸井千代子(当九年)が佇立しているのを発見したのであるから右児童らが道路を横断し他の一方の児童と合流するかも知れないことは当然予測されるところであるので岩下は自動車運転者として警音器を吹鳴して警告を与え児童らの動行に常に注意を払い万一横断を開始した場合は直ちに被告車を停車できるよう減速し危険の発生を回避しうるよう十分の注意を払うべきに岩下は前記児童らを発見した際警音器を一回吹鳴しただけで道路左側の丸井千代子に気を取られ水口姉弟に対する注意を怠り交差点であるにも拘らず同一速度のまゝ進行したため、被告車の進路前方を道路右側から左側へ横断すべく道路中央附近まで出て来た水口勝を約一四、五メートルに接近して初めて発見し危険を感じ急停車の措置をとつたが間に合わず被告車を水口勝に衝突させたこと一方水口姉弟は丸井千代子と共に右道路を横断して丸井の自宅まで出かけるべく三人で本件事故現場に至り丸井が車の通過した後安全を確認して道路を横断したが里美は横断するにつき危険を感じ一時立停つていたところ勝は丸井に引続き横断を開始し小走りで道路中央附近に至つたとき前記被告車と衝突したことが認められ右認定を覆すに足る証拠はない。

以上のとおり本件事故は岩下の前記過失により生じたものであることが明らかで水口勝にも右道路を横断する際手を挙げることもなくしかも小走りで横断を開始したものであるが岩下において水口勝および水口里美の動行につき十分の注意を払つたとすれば勝の被告車との衝突を回避することができたと思料されるのに岩下は右勝が道路中央附近に進出して始めて同人を発見したため同人との衝突を回避できなかつたものである。

しかしながら前記認定のとおり事故直前丸井千代子は道路横断を完了し引続き水口里美も追従して横断を開始しようとしたが車の進行状況から危険を感じ横断を開始せず道路端で佇立していたところ同女の傍にいた水口勝は既に横断を完了した丸井千代子に合流するため交通の安全を十分確認しないまゝ横断を開始したためこれが前記認定の岩下の過失と共に本件事故の一因をなしていることが認められるから被告主張の過失相殺の割合は一〇パーセントとするのが相当で右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで被害者の過失を過失相殺として斟酌するについてはその者が行為の責任を弁識する知能をそなえていることまでは必要でないが交通の危険を弁識しこれに対処しうる能力を有することが必要であると解するところ水口勝は当時六年六月であるが前記認定の事情のもとでは水口勝も幼児とはいえ道路を横断する場合車の進行状況によつては危険であること横断する際車の進行のない安全な時になすべくその際挙手をするなど期待できないことでもないからかゝる事実は十分認識していると考えられるので水口勝に過失相殺を適用するのが相当である。

二、原告らは本件事故により死亡した勝の蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料を相続したと主張し生命を害された者の慰藉料請求権の相続を承認する最高裁判所の判決(昭和四二年一一月一日集二一巻九号二二四九頁)も存在するがもともと慰藉料は一身専属的なものであるから当該請求権の行使のない限りその譲渡性を承認することはできず一方において被害者の近親者である父母、配偶者、子などは民法第七〇九条第七一〇条により固有の慰藉料請求権を有するのであるから生命を害された者の慰藉料請求権の相続を認める必要性はないので原告らの右主張は採用できない。(松尾俊一)

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